なぜ暴落になると「売りたく」なるのか
ここ数日の日経平均や米国株の下落を見て、投資が嫌になってしまった方は、けっこういらっしゃると思います。僕のところにも「このまま積立を続けて大丈夫でしょうか」というご相談が、最近とても増えています。
まず知っておいてほしいのは、ニュースの見出しはとにかく過激だということです。「原油価格が歴史的高騰」「日経平均、過去3番目の大暴落」——こうした言葉は、読者や視聴者の不安をかき立てるように作られています。そして専門家のコメントにも、それぞれの立場(ポジション)があります。一度「上がる」と言った人は、なかなかその主張を引っ込めません。つまり、テレビに出ている専門家の見立てですら、絶対に当たるわけではないのです。
動画やSNSの情報なら、なおさら玉石混交です。発信者によって言うことはバラバラで、薄まった情報は判断を惑わせる原因になりかねません。だからこそこの記事では、僕が歴史と経験から学んだことを、できるだけ事実とデータに沿ってお話しします。
資産が減るのが辛いのは当たり前です。でもその不安は、投資初心者から中級者へとステップアップするとき、誰もが一度は通る関門にすぎません。ここを乗り越えた人だけが、長く市場に居続けられます。
下落の正体は戦争ではなく“原油高とインフレ”
「暴落の原因は戦争でしょう?」と思われがちですが、投資家として本当に警戒すべきなのは、爆撃そのものではありません。鍵を握るのは、中東のホルムズ海峡という場所です。
ホルムズ海峡は「世界経済の大動脈」
ホルムズ海峡は、世界の石油の約2割が通る海の要所です。人間の体でいえば、心臓から全身へ血液を送る一番太い血管のようなもの。ここの通行が脅かされると、行き場を失った原油の価格が一気に跳ね上がります。実際、ある局面では原油が1バレル119ドルという数年ぶりの高値まで急騰しました。
原油高 → インフレ → 利上げ → 株安の連鎖
原油が高くなると、ガソリン代だけでなく、モノを運ぶ運賃も、電気代も、プラスチック製品の値段も上がります。つまり物価高(インフレ)です。インフレが進むと、中央銀行は金利を下げにくくなり、場合によっては利上げを迫られます。高金利が続けば企業の業績は圧迫され、消費も冷え込み、株価が売られやすくなる——このインフレと景気減速のダブルパンチこそが、市場が一番恐れているものなのです。
つまり今の下落の正体は「戦争のニュース」そのものではなく、その先にある原油高と物価高への警戒です。短期で実績を求められる機関投資家がここぞと売り、それを見た個人が怖くなって売る——この連鎖が値動きを大きくしています。
過去100年が教える、暴落の5つの法則
「戦争が起きたら、株価はずっと下がり続けるのでは?」と心配になりますよね。ですが、過去100年の株価データを振り返ると、見方が大きく変わるはずです。歴史が教えてくれる法則を整理すると、次のようになります。
| 法則 | 歴史が示す事実 |
|---|---|
| ① 下落幅は小さい | 地政学ショックによる下落は、平均してわずか −5〜6%程度にとどまる。 |
| ② 回復は早い | 下落から回復までの期間は、平均しておよそ1ヶ月半。 |
| ③ 戦時は意外に堅い | 過去100年では、有事の最中の方が平和な時よりリターンが高い局面すらあった。 |
| ④ 本当の敵はインフレ | 市場が恐れているのは戦争そのものではなく、それが招く経済危機=インフレ。 |
| ⑤ 終戦前に底を打つ | 株価は戦争が終わる前に底を打ちやすい。一番つらいのは「始まるかも」という不確実な時期。 |
たとえば2001年の同時多発テロのときも、市場は一時大きく下げましたが、約1ヶ月後にはほぼ発生前の水準に戻っていました。2022年のウクライナ侵攻でも、開戦直後こそ急落したものの、やはり約1ヶ月で落ち着きを取り戻しています。「砲声で買え」という古い相場格言があるとおり、不確実性が消えた瞬間に株価はむしろ反発しやすいのです。
たった一つの“例外”を知っておく
ただし、この法則には例外が一つだけあります。それが1973年の第4次中東戦争をきっかけに起きたオイルショックです。このときばかりは、S&P500がおよそ −48% も下落し、元の水準に戻るまでに数年、物価上昇を考慮すれば20年以上かかりました。
つまり、戦争そのものは株価を長く壊しません。原油が暴騰し、世界がインフレに陥ったときだけ、株式市場は数年単位のダメージを受けるのです。今回のように原油高が伴う局面は、過去と同列に「すぐ戻る」と楽観できない——だからこそ警戒が必要、ということです。
それでも、歴史は最後にこう教えてくれます。20世紀のアメリカは二度の世界大戦も、世界恐慌も、オイルショックも、感染症の流行も乗り越え、株価は長期では右肩上がりに成長してきました。投資の神様ウォーレン・バフェット氏は「株式市場は、せっかちな人から忍耐強い人へお金を移す装置だ」と語っています。過去のデータでは、S&P500を20年間持ち続けた場合のリターンは、ほぼ100%の確率でプラスでした。慌てて逃げ出すのではなく、この事実を知ったうえでどっしり構えることが、何よりも大切です。
これからのシナリオは3つに分かれる
原油ショックという、短期的には厄介な入口に立っている今、専門機関の見立てでは、今後は大きく3つのシナリオに分かれるとされています。
| シナリオ | 内容と株価への影響 |
|---|---|
| ① 緊張緩和 (確率35〜45%) | 数週間で安全が確保され原油が落ち着く。株価は3ヶ月以内に持ち直し、AI投資や企業利益の成長が再び相場を主導する。 |
| ② 長期化 (確率40〜55%) | 最も現実的で厄介なパターン。供給制約と輸送コスト高でインフレ警戒が続き、利下げが後回しになり株価は下押しされやすい。 |
| ③ 大規模化 (確率10〜20%) | インフラ破壊や報復の連鎖で供給遮断が長引く。歴史的には強い景気後退を伴いやすく、最も警戒すべきケース。 |
IMF(国際通貨基金)は「原油価格が10%上がり、それが1年続けば世界のインフレ率を0.4%押し上げる」と試算しています。大手金融機関も、戦争前は2026年のS&P500を強気に見ていましたが、いまは「エネルギー供給の混乱が長引かないこと」という条件付きに見方を修正しています。要するに、当面は値動きが荒くなりやすいが、長期の下落トレンドに入るとまでは想定しにくい——これが多くの見立ての公約数です。
暴落を乗り切る防衛策は「長期・積立・分散」
では、僕たち個人はどう動けばいいのか。結論はとてもシンプルです。分散を効かせたポートフォリオを、崩さずに淡々と続けること。これに尽きます。
少しだけ僕自身の話をします。僕は原油などが含まれたコモディティのインデックスファンドを、こういう局面に備えて一部持っていました。原油は供給が逼迫すると値上がりしやすいので、株式が下がる場面でそのファンドが利益を出してくれ、結果的にショックをやわらげてくれたのです。
ただし、これは「暴落したらタイミングを見て売買しましょう」というお話では決してありません。本記事は特定の商品や銘柄を推奨するものではなく、分散の考え方を紹介するものです。タイミングを計る売買はリスクが高く、多くの方にとっての最適解は、あくまで長期・積立・分散の王道です。
大切なのは、相場が下がっても怖がらずに積立を続けること。そして、いつ大きく下げても慌てないよう、あらかじめ分散しておくことです。その分散の王道となるのが、株式に加えて金(ゴールド)や債券といった、値動きの傾向が異なる資産を組み合わせておくこと。戦争が短期で終わろうと長期化しようと、この軸さえ持っていれば、今のパニック相場もいつか振り返れば「仕込みどき」だったと思える日が来ます。
- 下落しても、積立の設定はそのまま継続する
- コア資産(オルカンやS&P500など)はニュースで動かさない
- 株式・金・債券など、値動きの異なる資産で分散しておく
- 「いつ・いくら」の最適解は人によって違うと理解する
まとめ
暴落相場を生き抜く3つのポイント
- 下落の正体を知る
恐れるべきは戦争の爆撃そのものではなく、原油高が招くインフレと景気減速。 - 歴史を味方につける
地政学ショックの下落は平均 −5〜6%・回復は約1ヶ月半。例外は「オイルショック級のインフレ」だけ。 - 王道を崩さない
長期・積立・分散を続け、金や債券も組み込んでおく。慌てて売らないことが最大の防御。
ニュースは不安を大きく見せますが、僕たちには僕たちの戦い方があります。一時的な値動きに振り回されず、コアを守り、分散で備える。それこそが、暴落で後悔しないための一番たしかな方法です。
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